①おすすめの人
②結論
③内容
④URL
①おすすめの人
・「なぜ、理科」「学び合う教室」を受けて、有効な学び合いについて学びたい人
班の人数・構成、学年による差、教科別の差についても調べられている。
・学び合いによる学習や取り入れた授業、『学び合い』に興味のある人
・『学び合い』の学術的根拠や成立過程が知りたい人
②結論
教師は上手に教えられない(初心者熟達者の研究より)「なぜ、理科」
↓
学び合いが有効(社会生活の学び合いの三階層より) 「なぜ、理科」
↓
学び合う能力は生得的なもの 「学び合う教室」
↓
望ましい学び合いが起こるためには、コミュニケーションの能力の育成よりも、コミュニケーションを成立させる学習者間(さらには教師対学習者)の人間関係のほうが重要。「本書」
本書は1~10章まであります。構成は以下のようになっています。
1 筆者の理想のクラス像
2 何のために学ぶのか
3~8 学び合いの仕組みと不思議、指導法の提案
9~10 まとめとして、信頼と放任の違い、理想の教師像クラス像、今後の展望
③内容
1章 これが理想のクラス像?!
本の著者が目指す理想のクラス像は、ちょっと古い例ですが、「金八先生」や「ごくせん」のような生徒の中心に存在し、感動を呼ぶような教師ではありません。
教師が一歩引き、生徒は一人一人のペースで学びながらも分からないところは他の生徒に助けてもらっている。そんなクラスです。
これが理想であることを理解するには以下の5点を理解する必要があります。
①学びが成立するためには、知識・理解以上に人間関係が重要である。
②その人間関係を形成する能力は、幼く無力に見える子どもにもある。
③ところが、その人間関係を形成する能力を子ども達は発揮できず、異常な関係を成立させている。
④発揮できない原因は、教師が望ましい指導を行っていないことが原因ではなく、誤った指導を行っているからである。
⑤従って、なにか新しい指導をするのではなく、誤った指導をやめて、ごくごく当たり前のことをすればいい。
これらを感じられるようになるのがこの本の目的ではないかと思います。
2章 行動に結びつく環境教育
なぜ子どもたちは学校で理科を学ばなければならないのか、ということについて書かれているのかなと思って読んでいました。
「なぜすべきか?」という知識理解は必ずしも行動には影響しないことが述べられています。人が行動に移すとき、きっかけは個人的理由(自分が大事だと思っているから)と社会的理由(みんながやっているから)の半々で、継続する理由は個人的理由であるそうです。社会的に行動し続ける中で、その行動規範が内在化するとあります。勉強もやろうと思わせるには、「なぜすべきか」という知識と「みんながやっている」ことを学ばせる必要があります。
また、「なぜすべきか」を考えるときに教師は、「○○という教科とは、□□という人類文明を次世代に伝える教科」だからすべきという考え方をしがちですが、「○○という教科は、□□という人類文明を使って、何かを次世代に伝える教科」だからすべきという考え方もできます。そして、「何かを」は自身で考えなければなりません。本書では「何かを」に「他者とのコミュニケーション能力」としています。
3章 何故、実験しようとしないのですか?
そこで、実験の様子から役割を分類し、同じ役割の生徒を集めてみると、実験をやる人を集めた班でも、やらない人を集めた班でも、その後の役割の出現率はおなじになったそうです。また、男女別の班にしてみても、実験をやる人、やらない人の出現率は同様でした。
4章 真面目に参加する学習者を増やすには
すぐに思いつく方法として、厳しく指導する、教材を面白いものにするというのが考えられますが、3章でわかったとおり、社会的な状況が影響しているためそれでは不十分です。
では、一班あたりの人数を減らせばどうでしょう。2人、3人、4人の班を作って調査をすると、人数が少ないほど実験をやらない人が減ったという結果になりました。4人班では課題解決役の人に無視されることで傍観者にならざるをえない状況になった学習者がいたためです。
しかし、4人班でも、一つの実験に一回の話し合い活動を入れることで、時間経過とともに実験をやらない生徒が減少したという結果が得られました。話し合い活動の際注意したのは以下の4点です。
1.正解 を求めるのではなく、グループ全員で協力して取り組むことを強調した。
2.話し合いでは、結論だけではなく理由を考えるように指示した。
3.教師に対して質問 する前に、まずグループ内の生徒間で相談するように指示した。
4.生徒が自主的に行う話し合いを 重視し、話し合うことを強制しなかった。
さらに、授業構成上「 毎回、5分間程度の話し合い活動を入れる。」ように注意しました。
当たり前のことに見えますが、当たり前のことをちゃんとやることが大事であり、難しいです。
5章 学び合う能力は発達するのでしょうか?
学び合う能力は学年によって差がありそう(だんだん成長する)イメージだと思いますが、2ヶ月間小学校の1,3,5年生で話し合い活動をさせ、その様子をレコーダーで記録し分析すると、最初は差がありますが、2ヶ月たつ頃には学年差はほとんどなくなります。安易な合意ケースと呼ばれるものか、強制ケースと呼ばれるものに落ち着き、教師が望むような経験交換ケースは殆ど見られません。
学年差が殆ど見られなくなることと、一定の指導がないと経験交換ケースには至らないというのが発見です。少なくとも小学校段階では、発達するものではなく、クラスの文化によって決まるようです。
6章 学び合いを上達させるにはどうしたらいいのでしょうか?
話し合いの指導として次の3つを行いました。
① 話し合いの模擬ビデオ視聴
② 自己モニター
③ 話し合いのロールプレイング
ポイントは短時間で終えられる指導であることと、教師が善し悪しを示さないことです。
この指導のあと、誰とでも何人でもいいという自由グループでの活動を継続的に設けました。
すると、2.4.6年生で同様に経験交換ケースが増えました。
また、興味深いことに、強制ケース、無関心ケース、安易な合意ケースだったグループは、経験交換ケースと比べて次回のグループ構成が変わっていたそうです。
つまり、子どもたちは、どんな話し合いがいいか分かっているし、それが人との組み合わせで決まることも知っているし、どんな人と話し合うべきかその組合せを自分で決められるということです。
何度も出てきている、学び合う能力は生得的なものであり、遊びの中で身につけていたという考え方につながっていきます。
7章 学び合いに教科ごとの差があるのですか?
国語と数学と理科で、同じ班構成で話し合いの様子を分析しました。すると、国語では無関心ケース6割、強制ケースと安易な合意ケースが2割ずつで、経験交換ケースはほぼなかったという結果になりました。一方、数学と理科では安易な合意ケースが5割、強制と無関心が2割ずつで、経験交換が1割でした。話し合いの内容としては、国語は判断の理由を述べること、数学と理科では質問や説明をすることが多かったそうです。
同じ班構成でも教科によって質に大きな違いがあることが分かりました。
どうして差が出るかを調べたところ、どうやら指導書に沿った教師の指導に基づくみたいです。
これらの差は、すでに紹介されている自己モニターや自己モニターを他教科で混ぜて行う方法で改善され、一つの形に収斂されていったそうです。
その形とは、経験交換ケースであり、質問や説明によるお互いの合意形成を目的とした話し合いです。
この結果も、話し合う能力というのが生得的なものだから自然なことだとまとめられています。
8章 何人で学び合えばいいのでしょうか。
教室での班は4人が一般的ですが、実際に学び合う時の最適人数は何人かを調べるため、子どもたちに自由に構成を決めさせて、会話の分析を行いました。
結果は、学び合う人数は2人の構造を基本に、必要な役割の数に合わせて4人や6人となりました。
簡単な質疑応答なら2人、実験のように役割が増えれば4人という感じです。
9章 「信頼」すること「放任」することの違い
本書では教師は一歩引いて、子どもたちに学び合いをさせることが有効な手立てであるという立場をとっていますが、「一切教えるべきではない」と主張しているわけではなく、「教えるべきでないところまで教えるべきではない」という考えです。
そのためには次の4点を理解する必要があります。
①子供は有能である
②有能性を生かすために学び合いが有効
③教師は目標の設定と評価をすべき
④目標は個々のものではなく集団の目標にする
「子供を信じる」という「当たり前のこと」を本気で求めているだけですが、それが難しくもあります。
10章 終章
まとめとして、1章でも紹介された理想の教師像・クラス像が描かれています。
教師は何もしないように見えるが授業が子供たちによって自律的に運営される姿です。そのためには教師は「何のために学ぶのか」という目標を共有する必要があります。
また、今後の研究なら可能性(当時の)として、異学年での学び合いの可能性、班構成を学習者に任せることと教師が構成することの得失について書かれています。
④URL
改めてまとめとして、前作2冊を受けて
「望ましい学び合いが起こるためには、コミュニケーションの能力の育成よりも、コミュニケーションを成立させる学習者間(さらには教師対学習者)の人間関係のほうが重要。」という考えをさまざまな調査結果から述べた内容でした。
ご興味のある方は是非読んでみてください。