「教室マルトリートメント」という本を読みました。
教師をしている人には非常に学びになる本だと思うので紹介です。
マルトリートメントとは「不適切なかかわり」のことで、教室マルトリートメントは著者の造語です。
教室内で行われる指導のうち、体罰やハラスメントのような違法行為として認識されたものではないけれども、日常的によく見られがちで、子どもたちの心を知らず知らずのうちに傷つけているような「適切ではない指導」のことを本書では取り上げています。
この本はこんな人におすすめ
・怒鳴るような強い圧や毒語を用いた指導をしてしまう人
・静かでおとなしいクラスを作り上げている人
・上記のような関わりをする人が周囲にいて疑問を感じている人
・上記のような関わりを子供としてしまう保護者
もくじ
はりつめる教室(1章)
一見静かで統率の取れているように見える教室内でそのような教室マルトリートメントが起こっているのかが書かれています。
わかりやすい体罰やわいせつ行為以外にも、ネグレクトや心理的虐待に当たるような関わりが教室で繰り広げられているようです。
例えば
ネグレクトに類似した指導として
・適切な励ましや賞賛をしない
・支援が必要な子に合理的配慮を行わない
心理的虐待に類似した指導として
・威圧的・高圧的な指導
・教師からの毒語(質問形式の問い詰め、裏を読ませる、脅しで動かす、虎の威を借る、下級生との不必要な比較)
・子どもが自信をなくすような強い叱責
・子どもの主体的な行動を妨げるような指導
などがあります。
「マルトリートメントは残虐性が低く、日常的で地味で曖昧」と本書でも注意喚起されていますが、自分も気を抜いたらやってしまいそうなものや、学校全体を見ると散見されるようなものが含まれていて身の引き締まる思いです。
教師が子どもを傷つける(2章)
教師によるマルトリートメントが子どもに与える影響について紹介されています。
・トラウマ、フラッシュバック
・脳への悪影響
などがあり、
罰や脅しはエスカレートすること、恐怖や失敗や悲しい出来事は記憶に残りやすいことなど、以前紹介した「叱る依存がとまらない」でも出てきたことが紹介されています。
「熱心な無理解者」という言葉で、子どもを指導したいけど知識が不足している指導者への警鐘がされていたのが印象的でした。
圧は連鎖する(3章)
教師の吹かせる風、それが続くことによる「圧」はその場の子どもたちだけではなく、他の教師を通じて他の子どもたちへや、子どもたちの次年度にも影響が連鎖することがあるという内容です。
例えば急激な圧の降下がもたらすダブルバインド。
強い圧の指導を受けた子どもたちが次年度に圧の弱い教師に当たると、それまでと異なる指導に戸惑い自分で行動できなくなったり荒れたりすることがあります。
圧の強い弱いにはメリットデメリットがあるのですが、それを理解し自覚的になることが必要だと思います。私は圧が弱い方の教師という自覚があります。
・こじらせ教師の特徴と連鎖
・学校内で威圧的・高圧的な指導が連鎖していく理由として、職員室内で圧の強い教師が影響力を持つことと教師自身の自己防衛的態度で、共通点は不安にある。
・学校が「あれもこれも最優先」になっていて教師がストレスを感じ大事にされていないと感じていることが源流にある。
こんな話も出てきて面白いです。
教室マルトリートメントを防ぐ(4章)
教室マルトリートメントを事前に予防するための方法について紹介されています。
教室マルトリートメントの根源は「過度な成功モデルの追求」にあるといいます。
子どもの育ちは促成栽培ではないし、そもそも同じ学年でも成長に幅があるので足並みが揃うはずがないことを知ることが大事です。
この子ども理解の知識格差は教師の中でも大きいです。しかし、知識の伝授ではこれは解決できないので、子どもから学ぶ姿勢を持ち続ける教師の体質改善が必要です。
・姿勢が悪いのはボディイメージの未発達の可能性もある。着替えや持ち物の整理整頓もボディイメージと関係。
・学習性無力感も生徒の姿勢に関係。
・子どもの成長には安心感と探索がいる。そのために近くにいる大人は子どもにとっての安全基地であることが大事。
・子どもたちの内面世界の代弁者になれる教師になり、ラポールを気づく。
このあたりの知識をもっておくことが教室マルトリートメントを防ぐ知識として紹介されていました。
やはり教師こそが学び続ける姿勢が必要です。
教室マルトリートメントを改善する(5章)
すでに教室マルトリートメントに陥っていると感じたときの改善策が10個紹介されています。
私が実践したもの、しようと思っているものを紹介します。
②教師としての「成長ステージ」を知る
指導者の成長ステージの7段階というのが紹介されています。
1信頼関係未形成期
2知識先行期
3理念先行期
4実践準備期
5実践過渡期
6実践充実期
7態度変容期
私は教師の成長ステージの中で理念先行期と自己分析。7分の3段階にいる。そろそろ4に行きたいところです。
③身近なところに当面の師、反面教師をもって学ぶ。
身近に当面の師が見つかりにくくても、オンラインや読書の中でも見つけられる。
⑤授業内でのファシリテーション力を上げる。
ファシリテーションとは、「関わりの中で学ぶことを支える」指導スキル
⑥「分からない」が言える教室づくり
⑦子どもを褒める、というよりも、ポジティブな行動を後押しする。
嫌われる勇気を読んだりして「褒める」ことについても考えすぎるようになってしまいましたが、ポジティブな行動を後押ししてあげるという表現はしっくり来ました。
⑨職員室内の良質なコミュニケーションを増やす
職員室内のマルトリートメントを助長する空気をなくしていくために、3つ提案があった。
・仲裁者
・通報者・密告者
・スイッチャー
この中で私ができそうなのは通報者・告発者かな。
安全基地としての学校(6章)
もっと土壌的な予防策・解決策として、学校という組織が子どもたちの「安全基地」であるための考え方が紹介されています。
子どもたちにとっての最大のご褒美は、教師の笑顔と機嫌のよさです。
それだけでも価値があります。
今の学校の教師には残念ながら安全基地がないらしいです。残念。
やりがい搾取の原因は学校に向けられた欲しがりすぎがあるようです。
そんな苦しい中で教師に何ができるか。
「まず、変わりたいと願う自分をそのままキープしましょう。心の中に、一歩踏み出そうとするエネルギーが満たされるときがかならず来る。」と考えること。
日本の教育はブルシットジョブが山積みになっている。しかもジェンガのように絡み合って、全てをコントロールするのは不可能。
対策は、状況を受け入れながら、自分がコントロールできる部分だけでも変えてみること。
現状に憤りつつも漂いながら、子どもたちの防波堤になる。その覚悟はあるか。
不安常在という考え方こそが、教師を続けていくときに必要な道。
ということで、
すぐにはうまくいかないことだらけの中でそれに耐えながら、
特別なことをするのではなく、今この瞬間から笑顔を絶やさず暖かく心地よい風で子どもたちを包める教師を目指す。
こういうタフさが必要になってくるんだろうなと思います。
最後に
自分もそういう指導をしてはいけないと反省できましたし、自分が学校の中で生きづらさを感じることがある一つの理由を知れてスッキリしました。
「よい教師は子どもと共に笑い、ダメな教師は子どもを笑う」
本書の最初にこの言葉が出てくるのですが、私は前者になれるように研鑽していきます。
おすすめの人に挙げたような人や、興味のある方はぜひ読んでみてください。
非常に学びになる1冊でした。